横尾峠・汁谷峠(南丹市)

南丹市横尾峠付近の地形図
出典「電子地形図25000(国土地理院)を加工してaralagi作成

 ※ GPS等で位置を取得している訳ではありませんので経路はおおよその目安としてください

2022年2月11日(天候:晴れ)

 8:40 大和谷分岐

 9:00 大和谷不動尊(15分休憩)

 9:38 汁谷峠(首無地蔵)

10:04 横尾峠(30分休憩)

10:45 汁谷峠分岐

11:15 大和谷分岐

横尾峠・汁谷峠について

南丹市横尾峠付近の旧版地図
出典:旧版二万分一地形図 園部・須知村 明治四十五年(国土地理院)をもとにaralagi作成

 

 横尾峠は南丹市園部町船岡の藁無地区と同市日吉町志和賀をつなぐ峠です。古くから往来があった峠ですが、2006年に横尾峠の西の尾根を貫く横尾トンネルが掘られ、新堂地区と志和賀をつなぐ新横尾峠とでも言うべき車道が開通しました。園部町と京丹波町・日吉町との間には標高400mほどの山塊が横たわっていて、西から中山峠(船阪峠)・大谷峠(黒田峠)・観音峠・琴坂(市森峠)・横尾峠・汁谷峠・船賀峠・吉坂など、両地区の集落と集落を結ぶ小さな峠が存在しています。このうち、国道の観音峠と京都縦貫の新観音トンネルを除くと車で通行できるのは中山峠と横尾トンネルのみとなります。中山峠は離合困難な狭路ということもあって、車道の新横尾峠は国道のバックアップとしても重要で市道ながらそこそこ交通量もあります。一方、車で通行できないその他の峠道は現在では歩く人も稀で、地図上から消されてしまった道がほとんどです。

 上図は明治45年発行の旧版1/20000地形図ですが、黄色で色塗りされた道が若狭街道から分かれた志和賀道でその途中に横尾峠があります。横尾峠は別名「御幸道」とも呼ばれ、船岡の月読神社の神が志和賀の月読社(式内 志波加神社)へ通われる道とも言われています。古くから交通の要衝であっただけでなく、文化や信仰をつなぐ道でもあった訳です。また、旧版地図には志和賀道以外にも新堂や船岡から横尾峠へ続く山道が描かれていて、その途中に大和谷不動尊や、八栄へ越える汁谷峠などが存在し、汁谷峠にはお地蔵様も祀られているようです。最新の地理院地図ではこれらの道は描かれていませんが、かつての峠道や峠のお地蔵様は今はどうなっているのでしょうか。冬晴れの休日、大和谷不動尊へ参拝したあと、探索もかねて旧道を歩いてみることにしました。

① 大和谷分岐(スタート地点)~ ② 大和谷不動尊まで

 かつての志和賀道を峠方向へ。藁無集落の最後の民家を過ぎると道は未舗装路へと変わります。大きな溜池の手前に大和谷へと続く道が分岐。旧版地図ではこの道は描かれていませんので比較的最近造られた道と思われます。道の突き当りに資材置き場のようになっている空き地があって、ここからいよいよ山道になります。といってもこの先は道とよべるような状態ではないので、まずは地形図を見ながら沢の流れに沿って谷を詰めてみます。水が涸れたあともそのままひたすら登ると、谷は岩場のようなところで行き止まり。一瞬道を間違えたかと思いましたが、右側から岩を巻くようにして登ると上部にはトラロープが張られており、その先は人工的に石が積まれた水路のようになっています。この谷の奥にはかつて船岡鉱山が存在していましたのでその遺構でしょうか。そういえば先ほどの岩場も少し人工的だった気もします。そこからひと登りで大和谷不動尊に到着です。大和谷不動尊については「こちらの記事(大和谷不動尊)」を参照ください。

大和谷へ続く未舗装路
大和谷へ続く未舗装路
 
沢の流れに沿って谷を詰める
沢の流れに沿って谷を詰める
 
涸れ沢を詰めると岩場に突き当たる
涸れ沢を詰めると岩場に突き当たる
 
岩場の上部にはロープが張られている
岩場の上部にはロープが張られている
 
人工的な石組
人工的な石組 水路だろうか
 
大和谷不動尊
大和谷不動尊
 

② 大和谷不動尊 ~ ③ 汁谷峠まで

 不動堂の先を進むと冬枯れた明るい林に。ぱっと見では道らしきものは見当たらず、マーキングテープの類もつけられていません。さて、どうしたものか。無理やり主稜線に出てしまった方が迷わないとは思いますが、今回は古い峠道を探る目的もありますので、左手の尾根をゆるやかに乗り越す地点を目指して適当に進んでみることに。すると尾根を越えた先で古い石積みを発見。その先には意外としっかりとかつての峠道が残っていました。倒木などはありますが、藪に埋もれることもなく歩きやすい。道はしばらく西へ進んだあと、支尾根を乗り越した先で北向きに方向を変えます。ここから先は谷の源頭部にあたり急斜面で道もほとんど消滅していますが、滑り落ちないように気を付けながら斜面をトラバース。主稜線の鞍部目指して斜面を進むとそこが汁谷峠です。

不動堂の先の林
不動堂の先 道らしきものは見当たらない
 
古い石垣
古い石垣 道の跡か鉱山の遺構だろうか
 
古い道の遺構
かつての峠道 意外と広い幅員
 
支尾根を乗り越す
支尾根を乗り越す 道は西→北へ変わる
 
谷の源頭部の急斜面
谷の源頭部の急斜面(振り返って)
 

③ 汁谷峠

 汁谷峠は志和賀道の藁無側から分岐し、志和賀の八栄地区に抜ける峠です。旧版地図では八栄地区の場所に「志和賀汁谷」と記載されていてますので、その名をとって峠名にしたものと思われます。峠には首のとれたお地蔵様が一体。かつては人々の往来を見守っていたものと思われますが、今やその役目を終えて落ち葉の積もる峠にひっそりと佇んでいます。すっかり忘れられた峠道ですが時折訪れる人があるのでしょうか、お地蔵様の片手には枯れ枝の杖が握りしめられていました。

汁谷峠(横尾峠側から)
汁谷峠(横尾峠側から)
 
峠にはお地蔵様
峠の地蔵
 
汁谷峠の地蔵
手に杖を持つ首無しのお地蔵様
 

③ 汁谷峠 ~ ④ 横尾峠まで

 汁谷峠からは稜線方向に踏み跡が続いていますが、旧版地図を見ると古い峠道は稜線ではなく横尾峠まで水平道で繋いでいます。その方向に眼を凝らして見ると、なんとなく道のようなものが見えてきます。樹木に遮られて時々不明瞭な箇所もありますが、しばらく進むとしっかりとした道が姿を現します。樹木の合間からは園部の市街地や山並みの彼方に園部最高峰 深山のレーダー雨量観測所も確認できます。全く人に出会わない静かな山歩き。汁谷峠からわずかな時間で横尾峠へ到着です。

汁谷峠から横尾峠へ
汁谷峠から横尾峠へ
 
時々道は不明瞭に
樹木に遮られ時々道は不明瞭に
 
正面は四等三角点峰(新堂) 右奥の山は園部最高峰の深山
正面は四等三角点峰(新堂) 右奥の山は園部最高峰の深山
 
気持ちの良い峠道
気持ちの良い静かな旧道歩き
 

④ 横尾峠

 志和賀は現在では山間に唐突に盆地が現れる隠里のような雰囲気の山里ですが、かつては横尾峠を経由する古い交通路があったようで、集落には式内 志波加神社も鎮座する歴史ある土地です。志波加神社は江戸時代には月読大明神と呼ばれていて、峠を挟んだ船岡の月読神社とは兄弟神とされています。この志和賀の月読社の神使は猿で、猿は峠道を通り両社の月読社をとりもったと伝えられていて、その通り道を塞ぐとやかましいので、山に入った村人は「猿の通る道」だけは決して邪魔をしなかったという伝承が残されています。古くは多くの人が行き交う要衝の峠だったと思われますが今では訪れる人も稀。それでも時折山歩きが好きな人が訪れるのか、峠には手製の銘板がひっそりと置かれていました。

横尾峠
横尾峠 手製の銘板
 
峠の鞍部
峠の鞍部
 

④ 横尾峠 ~ ⑤ 汁谷峠分岐

 横尾峠から藁無方面へは杉の植林帯を下っていきます。このあたりは道もしっかりしていて迷うことはなさそうです。汁谷峠への分岐まで来た時、右手の斜面にずり落ちるようにして石の柱のようなものが倒れているのが気にかかりました。不思議に思って引っ張り上げてみると、いつの時代のものか古い道標のようで「右 しる谷 左 志わ加」と彫られているように見えます。こんな道標が残されているとは全く知らなかったので何だか嬉しい発見です。

峠を藁無側へ降る
峠を藁無側へ下る
 
汁谷峠分岐の古い道標
汁谷峠分岐の石の道標
 

⑤汁谷峠分岐 ~ ⑥ 大和谷分岐(ゴール地点)

 分岐から先も引き続き杉の樹林帯の中。途中から小沢が合流し適当に沢を渡りながら下っていきます。かなりジメジメした場所ですが、この辺りは蛭が出たりするのでしょう? 最近齢をとって低山の魅力が少しずつわかるようになってきた気がしますが、熊と蛭とダニが怖いのでもっぱら冬限定の山歩きです。右手に堰堤を見ながら先へ進むと藁無集落から続く未舗装路に突き当たります。峠道の目印なのか白いヘルメットが石柱に掛けられていましたが、夏場は草に覆われてこの先とても分け入る気にはなれなさそうです。

 今回、旧版地図に記載された古い道を辿ってみましたが、地元の人が利用しなくなっておそらく数十年は経っていると思われますが、意外としっかりと道径が残っていたのに驚きました。特に汁谷峠分岐の道標はちょっとしたサプライズ。実際に歩いた時間としては2時間くらいで、ちょくちょく地図を確認していたのでもっと短いかもしれません。登山と考えると少し物足りないですが、もともと生活道なのですから当たり前と言えば当たり前。歴史ある峠道がこのまま埋没していまうのも何だか寂しい気がしますが、一方で車道の新しい峠道も開通している訳ですので、これもまた時代の流れということなのでしょう。月読社の神使は人の通わなくなった峠道をどう思っているのでしょうか。少し荒れた峠道に憤慨しているのか、寂しく思っているのか、まあ、案外新しいトンネルを喜んで使っているのかもしれません。

沢に沿って下る
沢に沿って下る
 
目の前が明るくなってきたらゴールも近い
木々の向こうが明るくなってきたらゴールも近い
 
堰堤を横目に見て進む
堰堤を横目に見て進む
 
横尾峠へ続く道 目印?のヘルメット
横尾峠へ続く道(右手) 目印?のヘルメット
 

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