胎金寺山(南丹市)

胎金寺山の地形図
出典「電子地形図25000(国土地理院)」を加工してaralagi作成

 ※ GPS等で位置を取得している訳ではありませんので経路はおおよその目安としてください

2022年4月11日(天候:晴れ)

10:25 摩気神社 駐車場

10:41 口の天狗杉

11:00 奥の天狗杉(40分休憩)

11:56 胎金寺山 山頂

12:31 山頂出発

12:48 口の天狗杉

12:57 摩気神社 駐車場

胎金寺(たいこんじ)山について

竹井側から見た摩気神社と胎金寺山(右奥)
竹井側から見た摩気神社と胎金寺山(右奥) 左手前のピークは335m峰

 

 胎金寺山は南丹市園部町の摩気地区にある四等三角点峰で、園部町の竹井側からも反対の宍人側からも山頂部がこんもりと円錐形に盛り上がった山容が目を引く美しい山です。摩気神社(式内名神大社 麻氣神社)の神体山としても知られていて、胎金寺山の北麓に鎮座する摩気神社は南に面して祀られることが多い神社の中では珍しく「北面する神社」としても有名です。この鎮座地に関して『摩氣神社御由緒の記』に次のような記述があります。

『(摩氣神社の)境内は丹波唯一北向き社とされる。これは、まず園部川沿いに竹井集落ができ、そこから南の胎金寺山が神奈備信仰の対象とされ、それを背後に集落に向く形で社殿を置いたため、と考えられる

摩氣神社の背後には社を守るようにして胎金寺山が秀麗な姿でそびえています。標高は423.4m。園部川流域の穀倉地帯では一番高い山です。ひるがえって北を向くと(園部川の)左岸に竹井地内の摩氣・田輪、右岸には篠田の水田が広がっています。胎金寺山の天上で南中する太陽・水(園部川)・田畑という農業の3要素から、むかし神を祀る地を探し求めた人々が、「この地こそ摩氣の大神を祀る地にふさわしい」と判断し選定したのでしょう

水田耕作の観点から考えると、摩氣神社は集落の南に鎮座し、太陽と一体となって夜明けから日没まで麓の集落を照らしています。(中略)「北向きの神」は「南に鎮座する神」なのです

 摩気神社に参拝すると本殿の真向こうに輝く太陽が非常に眩しく、「南に鎮座する神」という表現はとてもしっくりきます。摩気神社の摩気は御饌が転訛したものとされ、御祭神の大御饌津彦命は水を司り、農業・食物を主宰する神で農耕と非常に関係深い神社なのですが、麻氣神をこの地に奉斎した人々にとっては集落に恵みをもたらすものとして、神社も胎金寺山も太陽と一体のものと認識されていたのでしょう。

 かつては宮寺として船阪 九品寺末の胎金寺がありましたが明治の廃仏棄釈により廃絶。現在では、山名にその名を遺すのみとなっていますが、江戸時代に記された『寺社類集』に「在宮山之頂」とある役行者堂は今も山頂にあり、毎年八月十八日には行者講と湯立祭が行われているそうです。山頂までの道筋には天狗が住むと伝えられている口の天狗杉、奥の天狗杉という杉の巨木もあり、かつての山岳信仰の痕跡を感じ取ることができます。

 頂上からの景色も素晴らしく、おすすめしたい山ではありますが、地方の低山らしく道標などは必ずしも十分ではありません。山頂までの登山道は比較的しっかりしていますが、ところどころ古い道や獣道が錯綜している箇所がありますので、しっかりした準備の上、注意して登山して下さい。

① 摩気神社 ~ ② 口の天狗杉

 桜の花びらの舞う摩気神社の駐車場よりスタート。茅葺屋根が美しい摩気神社に参拝し、本殿向かって右手の未舗装の車道を谷奥に進みます。ちなみに私も勘違いしていたのですが、摩気神社の本殿後ろに見える山は胎金寺山ではなくその隣の335m峰です。

 道の左側は沢の流れがあり、時折堰堤も現れます。一か所、右側に小さな道が分岐しているところもありますが、「胎金寺山登山道」と書かれた小さな道標に従ってそのまま直進。しばらく進むと未舗装道は行き止まりになり、沢に丸木橋が架かっているところから本格的な登山道となります。そこから口の天狗杉までは指呼の間。

摩気神社の社殿
茅葺屋根が美しい摩気神社の社殿 後ろの山は335m峰
 
未舗装の車道
未舗装の車道を谷奥へ進む
 
分岐の案内板
登山道の案内板 真っすぐ進む
 
登山道の丸太橋
未舗装道の突き当り 丸木橋で小さな沢を渡る
 

② 口の天狗杉

 口の天狗杉は樹齢300年以上といわれ、太い幹には注連縄が巻かれています。すくっと天に向かって真っすぐに伸び、四方八方に枝を伸ばし古老のような佇まい。この天狗杉について園部101年記念誌 翼』には次のような伝説が記されています。

 『昔、村の人が2~3人つれだって山仕事に行き、ついおそくなって夕方近くになりました。すると、天狗杉の上でコロコロコロ・ドンドンドンと太鼓をたたくような、物をころがすような妙な音がしました。村人はうす気味悪くなって「アッ、天狗が出た」と大いそぎで山をかけ降りて逃げ帰りました。それから村人は、一人でおそくこの山へ行くのを恐ろしがるようになりました』

 小さな滝があり、谷が狭まるようになった地形にもどこか威圧感があり、確かに天狗が住んでいそうな神妙な気持ちになる場所です。

口の天狗杉
口の天狗杉
 
太い幹に注連縄が張られている
太い幹には注連縄が張られている
 
樹齢300年以上と言われる巨木
樹齢300年以上と言われる巨木
 
四方八方に枝を伸ばす
四方八方に枝を伸ばす
 

② 口の天狗杉 ~ ③ 奥の天狗杉

 口の天狗杉からは谷を少し回り込むような形で登山道がつけられています。左手に小さなナメ滝を見ながらその上部に出ると、そこからは水の流れに沿った谷筋の道が続きます。小さな丸木橋を渡って更に進むと、正面の杉の木にピンクのマーキングテープが巻かれていて、足元には登山道の案内板。ここが奥の天狗杉への分岐点で、谷の奥に目を凝らすと、遠くに杉の巨木が聳えているのも確認できます。口の天狗杉からこの分岐までは、古い道が錯綜している箇所もあって少し迷うところかもしれません。

ナメ滝上部の谷筋の道を進む
ナメ滝上部の谷筋の道を進む
 
小さな沢の流れに沿って登る
小さな沢の流れに沿って登る
 
分岐 左は奥の天狗杉 右は山頂へ
分岐 左の谷の先に奥の天狗杉 右に進むと山頂へ
 

③ 奥の天狗杉

 分岐から先、沢に沿って少しだけ谷を詰めると急斜面の途中に見上げるほどの杉の巨木が聳えているのが見えます。口の天狗杉もかなりの大きさでしたが、それにもまして迫力ある樹形です。太い枝は腕のようで、今にも動き出しそうな雰囲気。その姿に圧倒され、しばらくの間、時間の経つのも忘れて見入ってしまいました。

奥の天狗杉
奥の天狗杉
 
腕を広げるような枝ぶり
太い腕のような枝を伸ばす
 
今にも動き出しそうな風格
天狗に見下ろされているような気がしてくる
 

③ 奥の天狗杉 ~ ④ 胎金寺山 山頂

 奥の天狗杉から分岐に戻り山頂方向へ。沢状の地形を少しだけ登ったあとは向かって右手の尾根に乗り、ちょうど天狗杉のある谷を半円形に回り込むようなかたちで山頂に向かいます。ツツジの咲く気持ちの良い尾根で、ゆるやかな傾斜の稜線歩き。頂上直下だけ少し急ですが、わずかな登りで四等三角点のある山頂に到着です。各地の山岳会や山好きの方が設置したのでしょうか、色とりどりの手製の山頂標が賑やかでちょっと笑ってしまいました。

雑木の明るい尾根
雑木の明るい尾根
 
胎金寺山 山頂
胎金寺山 山頂
 
色とりどりの山頂標
色とりどりの山頂標
 

④ 胎金寺山 山頂

 山頂には立派な行者堂があり、中には石の行者像と九品寺の御札が納められていました。毎年八月十八日には行者講が行われているそうで、『図説 園部の歴史』はその様子を次のように記しています。

『当日の早朝、行者参りに参加する男性と摩気神社の神主、竹井区の氏子総代、九品寺の住職が摩気神社の境内に集まり、本殿で神主の祓いを受けた後、一人が法螺貝を吹くのを合図に、胎金寺山にある堂に向う。途中、谷の水を汲み、自生している樒(しきみ)を切って進み、堂に着くと、堂内を清掃して護摩を焚く準備を行う。準備が整うと、住職を導師に参拝者が般若心経を唱え、住職が護摩を焚く。これを終えると、住職は堂から出、辻田の森田株の一人が「南無帰命招来」と唱えて一同唱和し、行者参りを終える。参りが終わると、直会を堂の前で行い、護摩木に燻した樒を全員で分けて、摩気神社に戻る』

 昔は育った木々に遮られて展望に恵まれない山でしたが、2019年に地元の方々によって頂上付近が整備され眺望が復活しました。麓の集落から園部の市街地、遠くの山並みまでが見渡せる見事な眺望です。帰りは来た道をそのまま戻って下山。山麓の摩気神社、天狗杉や行者堂、山頂からの眺望と、低山ながらもたっぷりと魅力のつまった素晴らしい山でした。

胎金寺山山頂の役行者堂
山頂の役行者堂
 
摩気神社と麓の竹井集落
眼下に摩気神社と竹井集落
 

山頂からの眺望

北側の眺望
北側の眺望 園部川沿いの竹井や仁江の集落 中央分水嶺の山々 美女山や彼方に長老ヶ岳など
 
北東側の眺望
北東側の眺望 宍人集落と奥は園部市街地
 
南東側の眺望 本梅川谷筋 愛宕山など 写真の更に右手には半国山や深山などが近い
南東側の眺望 本梅川谷筋 愛宕山など 写真の更に右手には半国山や深山なども間近に見える
 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です