掃雲峰・天狗岩(南丹市)
※ GPS等で位置を取得している訳ではありませんので経路はおおよその目安としてください
2023年3月11日(天候:晴れ)
9:00 るり渓 無料駐車場
9:11 登山口
9:45 天狗岩
10:02 掃雲峰 山頂
10:14 天狗岩(31分休憩)
11:06 登山口
11:14 るり渓 無料駐車場
掃雲峰・天狗岩について
掃雲峰は南丹市大河内集落の南に聳える山で標高は723メートル。地方の低山ではありますが、周囲に高い山がないため、少し離れた園部の市街地からもその姿を望むことができます。園部最高峰の深山と共に園部盆地の最奥を屏風のように取り囲んでいて、標高は低くともずっと気になっていた山のひとつです。京都・大阪府境の山域でもあり、”るり渓にある山”と言えば、関西の方ならずいぶん奥地にある山なんだなあと想像がつくかと思います。
るり渓は多くの文人に愛された景勝地で、渓谷の周囲を深山、剣尾山、半国山の摂丹三山がとり囲み、北側には掃雲峰が聳えています。これらの山々は古代の活発な火山活動の証である、花崗岩・流紋岩・溶結凝灰岩等の岩石で構成されていて、るり渓の美しい渓相や岩峰、露岩など独特の景観を生み出しています。観光資源として優れているのはさることながら、深山、剣尾山、半国山などがいずれも修験の山として古来より信仰されてきた点も興味のひかれるところです。掃雲峰もまた同様で、山頂より延びる尾根の東側には天狗岩と呼ばれる巨岩が露出していて、そこではかつて雨乞いの神事が行われていました。
『むかし、るり渓で一人の男が炭焼きをしていると、大岩の方から貝の音が聞こえたのでその方を見ると、天狗がほら貝を吹いていたので恐ろしくなり逃げかえった。それからこの岩を天狗岩というようになった。田の水がなくなると、村人は鳴滝の方より太鼓をたたきながら天狗岩へのぼり、岩上で千束の柴をもやして雨乞いすると、滝が音をたて雨が降るという話である。 ー ふるさと口丹波風土記 ー 』
この時の雨乞いの焚火は遠く離れた園部の川辺地区からも見え、南西の夜空を赤々と染めたと言い伝えられています。現在はダムや用水路が整備され雨乞いの神事も昔物語となってしまいましたが、信仰の対象だった天狗岩は今でも変わらぬ姿で聳えています。現在は時折ハイカーが訪れるのみの静かな山。天狗岩からの景色も素晴らしくお勧めの山ですが、登りは短いながらも結構な急坂で、深く積もった落ち葉に足をとられるような個所も多々あります。道中は目印の赤テープが頻繁につけられていますが、情報の豊富な山域ではありませんので、しっかりと準備の上、注意して登山して下さい。
① るり渓駐車場 ~ ③ 登山口
春の気配がわずかに感じられる3月初め、るり渓の無料駐車場よりスタート。綺麗なトイレも併設された便利な駐車場ですが、観光シーズンは結構込み合いますので早めの到着を。この日は自分の他に誰もなし。準備を整えて府道を登っていくと、左手に東屋と「鳴瀑」と書かれた標識。雨乞いの行事の際にはこの鳴滝の前に集合し、近くに祀られているお地蔵様の頭を滝の淵に沈めてから天狗岩を目指したそうです。
道路脇の別荘を横目に見ながら更に歩いていくと、「名勝 掃雲峰(天狗岩) 登り口 →」と書かれた大きな案内板。矢印の方向、少し寂れた別荘地の道路をジグザグと登っていきます。道の真ん中を堂々と倒木が塞いでいたりするので車で行くのは無理そう。T字路を左へ、車止めのバリケードを越えて進んだ先にある広場が登山口。「名勝 掃雲峰(天狗岩) 登山口」と書かれた案内板があり、脇から登山道が延びています。
③ 登山口 ~ ⑥ 天狗岩
登山口からはトラバース気味にぐるっと大回りするような形で高度を上げ、天狗岩から延びる支尾根のひとつを目指します。道はしっかりしていて、いたるところに目印のテープも。ガレた小沢(④)を横切り、尾根に取り着いたところ(⑤)で展望が開け、眼下にはスタート地点のるり渓無料駐車場や大河内の集落が。ここからは天狗岩まで急な登りが続きます。木段がつけられ道は良いのですが、深く積もった落ち葉が滑って微妙に登りにくい。初めて登る山はゴールがわからないので、いつも登りは永遠に感じられます。途中には「天狗岩まで500m」と書かれた手製の案内もあるのですが、500mとはまだまだ先なのか、それともあと少しなのか。それでも、こういった案内表示を見ると少しほっとしますね。「天狗岩まで200m」の案内板までくればもうひと踏ん張り。木々の合間に天を衝くような大岩が見えてきます。登山口から35分。着いてしまえばあっという間。
⑦ 掃雲峰
今日は快晴。天狗岩からの景色は後の楽しみにとっておいて先に掃雲峰の山頂を目指します。天狗岩から先は広い尾根となり踏み跡も少々怪しくなりますが、尾根を外さないようにほぼ平坦な道を歩いていきます。ここから先は赤テープに変わって、赤色の境界杭が目印に。掃雲峰の山頂までは10分ほど。展望も何もない地味な山頂ですが、この静けさ、冬枯れた林の明るい雰囲気が何気に好きです。山頂には各地の山岳会によって設置された手製の山頂標。天狗山は掃雲峰の別名ですが、いかにも学のある人が名付けたという感じの掃雲峰より天狗山の素朴な響きの方がどこか親しみが湧きます。
再び天狗岩へ
山頂を後にして来た道を天狗岩まで戻ります。改めて見てもなかなかの迫力で、裏側には石室のような空間も。園部地域では天狗伝説のあるところ、修験の痕跡が色濃く残っている事が多いのですが、ここも修験の道場のような雰囲気です。雨乞いもこの辺りの広場で行われたのでしょうか。『郷土誌 丹波古道』にかつての様子が詳しく記載されていますので引用したいと思います。
『少年時代を故郷で過ごした思い出として、雨乞いがある。稲作にとって大切な灌がい水も、きつい日照りが続くと、谷川も小川も水が枯れてしまい、田に水を引くことが出来なくなってしまう。特に「穂孕」の時期に水が足りないと、秋の収穫に大きな打撃を受ける。「困ったときの神頼み」という言葉があるが私達の村でも日照りのきつい年には神様に慈雨をお願いして「雨乞い」という行事を行った。 場所は現在の公民館の南方にそびえる、標高700メートル余の天狗岩一帯の自然林の広場で、大きな焚火をして慈雨を天に祈った。 当日は午後全戸各一人が芝刈り鎌をはじめ山仕事の身ごしらえに身を固め、るり渓の鳴滝に集合した。近くに祀られているお地蔵様の頭をお借りして固く縛り、雨を降らせて欲しい事をお願いし「叶えて下さればすぐに元にお返し致します」と唱えながら淵に沈める。そして一行は山道を天狗岩の雨乞いをする場所を目指して登っていく。約一時間近くかかったでしょうか、現地に着いて、一帯を広く芝刈りをして薪を作り、防火に万全を期して、積み上げた薪の山に、祈りながら点火する。薪の山は天をも焦がす勢いで燃え上がる。周りを囲む人達は口々に「雨を降らしたまわれ」など連呼しながら見守ること数時間、最早下山しても安全と思われるころを見計らって、帰りの途につき行事は終わる。不思議な事に雨乞いの後にはよい雨に恵まれたという言い伝えがある。時には下山の途中雨が降り出した事もあったと御利益あらたかであったことを古人は伝えている』
天狗岩の側面には太い枝をロープで縛った簡単な梯子がつけられていて上部まで登ることができます。信仰の対象に登っていいものか、という思いがよぎりますが誘惑には勝てず。岩の上は平らでちょっとした広さ。もちろん遮るもののない大展望が楽しめます。岩の上に寝そべって、ぼーっと景色を眺めているだけで本当に心が落ち着きます。人懐こい冬越しのヒオドシチョウがヒラヒラと。聞こえるのは風の音と鳥の囀りのみ。他に登ってくる人もいない静かな山頂。雨乞いの焔の幻想的な光景に想像を巡らしながら、低山の魅力をたっぷり堪能した山行となりました。