春日神社(園部町佐切)

南丹市園部町佐切の春日神社

 

 園部町佐切の春日神社です。祭神は武甍槌命、経津主命、天児屋根命、比売神の春日四神。玉泉寺の寺伝によると創祀の年代は昌泰元年(898年) 玉泉寺の第六世 覚如上人が佐切の産土として春日大社の分霊を祀ったのがその始まりとされています。『船井郡神社誌』には江戸時代の享和三年(1803年)の創立とありますが、こちらは再建年かと思われます。 当社は佐切にある玉泉寺の観音堂と隣り合わせで祀られていますが、お寺に隣接しているというよりは、お寺の中にあるという方が正確で、神仏習合の古風をよく伝えています。元々は玉泉寺の鎮守社として勧請されたものなのでしょう。現在の玉泉寺は山中に無住のお堂があるのみの静かなお寺ですが、元々は園部町域でも古い由緒をもつ古刹で、中世にはかなりの規模と賑わいのあった寺院だったようです。『大堰の流れ』に寺伝が載せられていますので、引用したいと思います。

「平城天皇の大同年間(806~810年)、佐切の里に小野胤世という狩人がいた。柱ヶ谷の方向に何年か前から一日も休む事なく法華経を唱える声が聞こえ光明を放っている。胤世は一矢を放って行って見れば、光り輝く三寸三分の金の仏像が土中より現われ、肌が温かい。力持ちの胤世が持ち上げようとしたがどうしても動かない。里人と共に来たって持ち帰り一間四方のお堂を建立しお祀りした。この不思議な話が丹波の国守 藤原某の耳に入り、五間四方の堂宇を建立して、寺号を瑞光山玉泉寺と命名した。昌泰元年(898年) 法相宗、奈良興福寺の覚如上人が、奈良春日大社の分霊をたずさえ来たり、佐切の産土神として春日神社を祀り、玉泉寺に隠居し第六世和尚として住し、延喜四年(904年)三月、大講堂の工を起こし、同年九月竣工、在山二十五年にして延喜二十二年入寂。国守、比叡山より雲林房義心阿闍梨が入山され天台宗となった。阿闍梨は人望も厚く、天台の信徒や僧侶が訪れ、出入りが盛んになって賑わったと伝える。阿闍梨は大蔵経を写経して経蔵を建てて納め、多宝塔、鐘楼、仁王門、伽藍の整備をし、寺の形を整えたので、大江維春、平正時などの来訪があったと云う。現在も寺の裏山を観音山と云い、観音堂跡地を古観音、また、山門の跡と言われる所を仁王堂と地名に残している。その後、天正年間、明智光秀丹波平定の折、兵火に罹り春日神社、玉泉寺もろとも焼失。天和二年(1682年)天台宗改め臨済宗となり、東林本師 梅嶺和尚が経営に当たったが落雷のため焼失、不思議と仏像は焼失を免れて、現在の堂中に収まっている」

 寺伝の史実性はともかくとして、当地を含む園部町の川辺地域は藤原氏の荘園であった桐野牧があったところで、玉泉寺の建立を丹波国守 藤原某と伝えている点も、鎮守社として藤原氏ゆかりの春日大社を勧請している点も、そうした歴史的事実が背景としてあるものと思われます。また、中世には室町幕府の御料所 桐野河内郷の一部となっていますが、玉泉寺や当社の興隆も当地の国人領主衆の隆盛と無関係ではなかったはずです。社伝では、古く当社の祭礼には木崎郷の全ての長が参加したと伝えらえらおり、木崎郷三十三ヵ村の総鎮守こそ佐切の春日神社であったといいます。真偽のほどは不明ですが、玉泉寺や当社のかつての繁栄ぶりが伺い知れる伝承です。一方で、明智光秀の兵火にあって堂宇悉く焼失したとする伝承も善願寺をはじめとして園部町域には多くあり、当社も同じ由緒を伝えています。実際に当地が戦場になったのかどうかはわかりませんが、寺社は決して世俗を離れた超越的な存在ではなく、それを庇護する在地の有力者と共にあった訳で、戦国末に中世土豪の盛衰と運命を共にしたのは当社もまた同じでありました。現在の社殿は棟札に享和の年号があり、享和三年八月十五日の再祀と伝わっています。

 佐切集落の背後に延びる谷の奥、尾根の中腹にある深い森の中に鎮座しています。境内は苔生して独特の雰囲気。本殿は小さいながら精緻な彫刻が施された見事な造り。隣接して玉泉寺の観音堂があり、お堂には梅嶺和尚の書による扁額が掲げられています。神社境内の一段下には崩れかけた廃屋がありますが、こちらも玉泉寺に関係のある建物でしょうか? 廃屋の前には小さな祠があり、中には二体のお地蔵様が祀られていました。神社の本殿に隣接して境内社の八坂神社が祀られていますが、こちらは当社の鎮座する谷の奥にかつて祀られていた牛頭天王社を遷し祀ったもののようです。

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深い森の中の山道の先に春日神社の鳥居
緑濃い森の中の石鳥居
 
八坂社の祠の前から境内を見下ろす
八坂社の祠の前から境内を見下ろす 山の斜面を拓いた小さな境内
 
春日神社の本殿
春日神社 本殿
 
本殿の龍の彫刻
本殿の龍の彫刻
 
木鼻の造形も見事
木鼻の造形も見事
 
境内社(八坂神社)
境内社(八坂神社)
 
玉泉寺 観音堂
玉泉寺 観音堂
 
祠内に祀られていたお地蔵様
祠内に祀られていたお地蔵様
 

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